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相続対策を考える(相続登記のススメその②)

 最近万年筆にはまっています。この万年筆はインクの色が眺められるので特にお気に入りです。このインクの色は
『空色』入道雲の浮かぶ夏の空を思わせる爽やかな色です。

 

 

 相続の問題で相談を受けていて強く感じることそれは、殆どの方にとって相続は初めてのこと、ということです。なので、初めての事で戸惑ったり、不安になったりしてしまうのは仕方ありません。
 相続人の方が抱える悩みの中でも特に解決するのが難しいのが
『どのように遺産を分ければいいのだろう?』
『そもそも、親(被相続人)は、どのように遺産を分けることを望んでいたのだろう?』という悩みです。
 相続人の方がこのような悩みを抱えることを防ぎ、ご自身が望む形で遺産を次世代に承継していくためには、事前に対策をする必要があります。そしてその際に欠かせないのが遺言と生前贈与です。


遺言とは?
 遺言者(遺言書を書く人)の遺産を誰に受け継がせるかを予め自分で決めておくことが出来ます。また、死後認知など一定の身分行為もできます。
 遺言の内容(遺産をどのように分けるか)は遺言者の自由(※一定の書式要件を満たす必要はあります)ですが、遺留分などに注意が必要です。ここの配慮を欠かしてしまうと、遺言者の意思通りの相続が実現できなかったり、相続人の間で諍いの素になってしまったりする可能性があります。


生前贈与とは?
 ご自分が元気なうちに財産を相続人などに贈与することです。
 生前贈与で受け取った財産は基本的に相続財産にはならないので先ほど遺言の注意点で挙げた遺留分を侵害せずにすむ可能性があります。遺産を相続人の誰かに偏って承継させたい場合にはこの生前贈与が特に重要です。


生前贈与の注意点:生前贈与はお早めに
 生前贈与は前述のとおり遺留分対策に効果的ですが、相続人に対する相続開始10年以内に行われた贈与は遺留分を計算する際に相続財産に含まれてしまいます。
 また、相続税の計算上も同様に相続開始以前3年間(令和9年から段階的に期間がのび最終的に7年間になります)の贈与は相続財産に含まれてしまいます。
 つまり、生前贈与を活用するためには、長期的な計画を立てて、時間をかけて財産を移していく必要があります。


生前贈与のやり方
 生前贈与は贈与ですので当然贈与税のことを考慮に入れる必要があります。
 基本的な点として暦年贈与と言われる贈与税の非課税枠があり、年間に贈与を受けた金額が110万円以内であれば贈与税はかかりません。ですので、この非課税枠を最大限活用できるよう年数をかけて少しずつ贈与するのが原則になります。(毎年同じ時期に同じ額が贈与されていたりすると定期贈与として一括で課税される可能性があるのでご注意ください) そして贈与税が非課税となる制度として、相続時精算課税があります。


相続時精算課税とは?
 その名の通り、生前贈与を受けた際に贈与税の猶予を受けて相続時に精算する制度です。この制度を利用して受けた贈与は相続時に相続財産に含まれるため、基本的には相続税対策にはなりません。しかし、一般的に相続税の方が贈与税より税率が低いですし、そもそも相続税がかからない場合には特に有効です。
 そして、この相続時精算課税は限度額が2500万円までなので、暦年課税を利用する場合よりも、まとまった財産を贈与するのに向いています。
 この制度の注意点として、相続時精算課税を選択した場合、その贈与者からの贈与は暦年贈与を適用できなくなるという点があります。しかし、改正がなされ、令和6年1月1日以降に受けた贈与については年110万円の基礎控除が受けられることになりました。つまり相続時精算課税を選択した贈与者からの贈与であっても、暦年課税と同様の贈与税の免除を受けられる事になったのです。更に、この基礎控除は暦年課税とは別個の制度のため、両方の免除を受けることも可能です。例えば父親から相続時精算課税を利用して2500万円分の贈与を受けている場合で、次の年に父親から110万円までの贈与を受け、同じ年に母親から110万円までの贈与を受けた場合、父親からの贈与は相続時精算課税の基礎控除で、母親からの贈与は暦年課税で、どちらも贈与税がかからず贈与を受けることができるようになったのです。


活用方法
 ここまでご説明したように、相続時精算課税が使い勝手良くなっていますので、暦年課税と組み合わせて、長期スパンで財産を次世代に移していくというのがおすすめです。
 特に、生前贈与が相続財産に含まれる期間が相続開始前の7年間に伸びていきますので、より早くに承継をする必要性が増していると言えます
 生前贈与を活用するイメージとしては不動産などの分けにくく、高額になりがち財産を相続時精算課税を活用して贈与し、将来の相続税支払いのための資金や、あるいは遺留分侵害の主張がなされた場合に備えた資金として毎年現金を贈与していくというのがベストシナリオではないでしょうか?そして、ご自分が住む家など、すべての財産を生前に承継させるのはあまり現実的ではありませんので、生前に贈与できない財産の分け方については遺言に書き残しておくなど、いくつかの手段を組み合わせていくことになります。


むすびに
 相続というのは、滅多に経験はしないとしても、誰もがいつかは直面する課題です。
 “その時”に少しでもお子さんたちが悩んだり途方に暮れてしまったりしないよう、お元気なうちできる対策を考え見られてはいかがでしょうか?その際は是非、税理士や司法書士といった相続の専門家にご相談ください。

2024年08月30日

相続義務化って何?(相続登記のススメその①)

 今年6月に紫雲出山にて撮影した瀬戸内海をのぞむ紫陽花達
 (本当はこのブログを先月書こうと思い、それ用に写真を撮りに行ったのですが、ブログを書くのが遅れ
 季節外れに…) 

 

 皆さまお盆休みはいかがお過ごしでしたでしょうか?ご家族の方が帰省してこられたりして、一家団欒で過ごされたという方も多いのでは?親族の方が集合する場面で相続のことが気になったという方もいらっしゃるかもしれません。今年は相続登記が義務化されたということもあり、事務所への問い合わせや、司法書士の相談会などで相続に関して質問をいただくことがとても多くなっています。 というわけで、この時期気になる相続の話。その基礎知識として、今年の民法改正による相続登記義務化について、どんな内容なのか、どのような人に関係があるのか、実際にどのように対応すればよいのか、簡単にまとめてみたいと思います。

 

いまさら聞けない相続登記義務化って何?


何が義務化されるの? 

 不動産を相続した場合に必要となる相続の登記が義務化されました。 
自分が不動産を相続したことを知ってから3年以内に、その不動産を管轄する法務 局へ相続による所有権移転登記申請を行う必要があります。 
※遺産分割協議が整わない場合などは新設された相続人申告の登記を申請することでも義務を果たせます。この登記には不動産登記における自分の権利を守る効力はありません。

 

何故義務化されたの? 

 不動産の権利登記は自身の権利を守るための役割が主でしたので、これまで義務で はありませんでした。しかし、長い間相続登記がなされずに放置されていると所有者の行方が分からなくなったり、所有者が亡くなってその相続人が誰か分からないというような状態になっている土地、いわゆる『所有者不明土地』となってしまいます。
 このような『所有者不明土地』が今では合計すると九州の面積に匹敵するほどになると言われています。『所有者不明土地』のまま放置されると、土地の有効活用ができなかったり、公共工事を行う際に障害となってしまったりと、様々な問題が起きてしまいます。そのような事態を避けるため『所有者不明土地』の発生を予防するための手立ての一環として今回、相続登記の義務化がなされました。

 


義務に違反するとどうなるの? 

 法務局から相続人に対して通知がなされます。そしてこの通知を受けて速やかに相続登記を行うか、相続登記を行うのが困難な場合にはその理由について弁明する必要があり、この義務が果たされなかった場合には10万円以下の過料が課される可能性があります。
このように、いきなり問答無用で過料が課される訳ではありませんが、それでも期 限内に相続登記を行うのはとても大事だと言えます。

 


早目に相続登記をするべきなのはどうして? 

 ① 過料を払っても相続登記をする義務がなくなる訳ではない 
 相続登記を期限内に行わなかったことによる過料はあくまでも、相続登記を促すためのものであり、それを支払ったからと言って、相続登記の代わりになるものではありません。つまり、過料を支払ったとしても、相続登記義務に違反した状態はそのままです。今回の義務化されたばかりですので、実際の運用がどうなるのかはまだ分かりませんが、条文上は登記義務が果たされない限り何度でも繰り返し過料が課される可 能性があります。 
また、将来相続した不動産を売買などで処分する際には当然相続登記が必要になります。その時までに過料を支払っていたとしても、登録免許税が安くなったりはしません。つまり、相続登記は避けられないもので、過料を支払っても何も得はありません。 

 ② 相続は時間が経つほど大変になる 
 相続登記をするには基本的に相続人の全員で遺産分割協議を行う必要がありますが、長く相続登記を怠っていて、相続人の誰かが亡くなったりするとその方の相続人も協議に参加しなくてはならなくなります。協議をする人数が必然的に増えていきますし、次第に関係が疎遠で、殆ど会ったことのない相続人が現れてきたりします。また遠方に住んでいたり、海外在住の相続人がいたりと、協議をまとめるのが困難になるケースはとても多くあります。もちろんそのような困難ケースでも司法書士のような相続の専門家にご依頼いただけ れば解決は可能だとは思いますが費用も時間も多く掛かってしまいます。なるべく早く相続登記をすることがお金も時間も掛けずに相続を終わらせる上では欠かせません。

 


 早めの相続手続きを行うことがが肝要だということをご理解頂けたでしょうか?
 そうは言っても、多くの方にとって相続というのは人生の中でそう何度も経験するものではありません。相続登記をしなくてはいけないと分かってはいてもどんな書類を集めてどうやって申請書を作ったら良いのか分からないという方が殆どだと思います。

 相続手続きについて不安を感じるという方は是非お近くの司法書士にお尋ねください。

2024年08月18日

研修会に参加しました

 先日、五色台の休暇村で行われた司法書士同士の勉強会に参加してきました。上記のような素敵な景色を眺めながら講義を受け、講義が終わった後は、おいしい食事を頂きながら、他の参加者と研修内容を振り返ったり、日常の業務についてなど話がはずむ楽しい集まり…なのですが、今回私はただ研修を受けるだけでなく、一コマ講師を担当することになり、とても緊張しました。でもそのおかげで、終わった後のご飯は緊張から解き放たれてより一層おいしく感じることができました。

 今回私が担当したのは『休眠担保』についてです。聞いたことがないという方も多いかとは思いますが、何気ない相続登記の際などにも、出くわすことのある意外と身近で、厄介な存在です。

 簡単に言うと、役目が終わった抵当権などについて抹消登記を忘れたままにしてしまっていて、抵当権が登記上残ってしまっている状態のことです。半世紀以上前のものなども多く、そうなると当事者や資料が残っていなかったりして結構面倒な手続きが必要になってしまいます。

 休眠担保については今年4月の不動産登記法改正でも一部対処がされていて、講師役を担当したことで改正の内容についても自分の中で再度整理することができました。

 皆さんも、不動産の登記簿を見ていて古い抵当権が残っているのを見つけたらお近くの司法書士にご相談ください。

2023年09月10日

Memento Mori

2023年も2週間が過ぎました。早いものですね。
もうお正月気分も抜け通常運転に戻っておられる頃でしょうか?

 私の方はと言いますと,私が後見人を務めている方が年始に亡くなり,葬儀手続きが今年最初の仕事となりました。
 身近な親族の方がいらっしゃらず,また,ご本人が生前葬儀会社と契約されていたこともあり,後見人の職務権限に含まれるのかと少し疑問は抱きつつも,喪主として葬儀手続きを執り行いました。
 昨年の11月末に後見人に就任したばかりで,殆どお話をする機会もなく,ほぼ初対面の私が喪主として見送らせていただく事に申し訳なさを感じつつも,心から冥福をお祈りさせていただきました。
 ただ,やはりもっと長い時間をご一緒して,これまでの半生を,人となりを知ることができればよかったのになと感じもしました。

 私が後見人になっている方が亡くなるのは初めての事で,色々な手続きでバタバタしましたが,改めて,他人の人生に係わらせていただく後見業務の奥深さを感じました。
 そして,このブログのタイトルにもしましたが『Memento Mori』「自分がいつか必ず死ぬことを忘れるな」という警句が頭に浮かんできました。年の初めに,命の儚い事を再認識し,限りある時間を有意義に使おうとの想いを新たにした次第です。

 

2023年01月15日

あなたの街の司書(司法書士)のコーナー~その①~

私の職業は司法書士,略すと『司書』・・・全く別の職業になってしまいますね。

そこで(どこで?),私司書の資格はありませんが,読書大好き司として,お薦めの本を発信していきたいと思います

 

第一回目の今回ご紹介するのは『自省録』(マルクス・アウレリウス著:岩波文庫刊)

 こちらの一冊。著者は何と古代ローマ帝国の皇帝!ローマの長い歴史の中でも,優れた皇帝が続き最も繁栄したとされる五賢帝の中の一人です。
2000年も前に書かれた本ですが,読み進めるために歴史の知識は特に必要ありません。等身大の一人の人間としての皇帝が自らに向き合い,悩み,また自らに言い聞かせる数々の名言が収められていて,普遍的な内容となっているからです。

 当時のローマ帝国の版図は北はイギリス,南はエジプトまで広大な領土を有していました。そんな絶頂期にある帝国の皇帝が記した書です。さぞかし輝かしい業績を誇る内容になっているのかと思いきや・・・冒頭から自身の家族や教師,身の回りの教訓を与えてくれた人々への感謝が並べられています。この『自省録』はもともと出版するつもりもなく書かれていたもの。感謝の言葉も見せかけではなく,ひたすら謙虚に,自信を客観視しようと努めていたことが窺えます。

 五賢帝の特徴として,それぞれ世襲ではなく,有望な次期皇帝候補を遺言等の形で指名する形で権力が移譲され,この事が優秀な皇帝の続いた理由ともされています。  
著者マルクスも皇帝の家に産まれたわけではありませんが,幼少のころから哲学を学び優れた資質をみせ,時の皇帝ハドリアヌスに「最も真実な者」と呼ばれるほど見込まれ,次期皇帝アントニウス・ピウスの養子に指定する形で将来の皇帝となる運命が定められました。

 きっと,マルクス自身としては一人の哲学者として過ごせた方が幸せだったのではないのかと思うほど,彼の治世中は帝国の境界線の至る所で異民族との衝突が起こり,転戦に次ぐ転戦で帝国各地に赴く日々が続きました。
そんな皇帝としての激務を,ローマ市民としての務めとして専念し,自らを奮い立たせていた様がこの『自省録』には克明に記されています。

『すべての出来事や自分に運命づけられた事柄を心の底から歓迎するような人間となし,特に必要な場合や公共のための場合を除いては,他人が何をいい,何をおこない,何を考えているかについてめったに考えもしないようにする。このような人間は自分に関係した事のみを活動の対象となし,宇宙全体を織りなすものの中から自分に振り当てられているものについてたえず想いをひそめている。そして自分の務めはこれをよく果たすように努め,自分に与えられている運命は善であることを確信している』
自らが理想とする善き人間であれるようにと,自らに言い聞かせている姿が目に浮かびます。

 皇帝といえども何事も思い通りに行きはしません。
『「なんて私は運が悪いんだろう,こんな目にあうとは!」否,その反対だ,むしろ「なんて私は運がいいのだろう。なぜならばこんなことに出会っても,私はなお悲しみもせず,現在に押しつぶされもせず,未来を恐れもしていない」』
運命から逃れられない人間の現実を直視しつつも,確固たる意志を持ち続けることの強さを信じている事が伝わってきます。

 そして,皇帝の務めを果たしながら,無力感を感じることもあったのでしょう
『アレクサンドロスも彼もおかかえの馬丁もひとたび死ぬと同じ身の上になってしまった』
 といったように人生の儚さに幾度もふれています。しかし,だからと言って無気力になってしまうのではなく,無用な人からの称賛を重んじることを避けつつ,己の内からの善に従って行動することで今この瞬間を良く生きるという哲学が繰り返し,綴られています。

 最後に,この寒い冬の季節特に身に染みる言葉を取り上げます。

『明け方に起きにくいときには,つぎの思いを念頭に用意しておくがよい。「人間のつとめを果たすために私は起きるのだ」自分がそのために生まれ,そのためにこの世に来た役目をしに行くのを,まだぶつぶついっているのか。それとも自分という人間は夜具の中にもぐりこんで身を温めているために創られたのか』

 皇帝と言えど,私たちと変わらない事で悩んだり格闘していたんだなと微笑ましくなるとともに,自分も朝目覚める時に自分に言い聞かせたいなと思いました。

 

2023年01月09日
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